網膜色素変性症の親
2009-12-04


いきなりコミックの話になりますが、「少女ファイト」という連載コミックがあって、高校生主人公の彼氏が網膜色素変性症だが主人公はそれを知らない、そして、その彼氏の弟が主人公の同級生で、とあることでそれを知って思い悩む、という展開がある。相当単純化しています。
この病気は遺伝性疾患で、この兄弟の場合父親もそうなわけですね。で兄には子供のころから目が見えなくなっても大丈夫なような躾をし家も動線を考えてつくってあり、ということに弟がはたと気づくのですが、自分はいままでお気楽に育てられ何も知らなかったと。
遺伝性だからってだれにどう発症するかなかなかわかるものではないので、兄が病気についてはやくから知らされ躾けられて弟はなにも知らされず放置というのがどうもおかしい。弟に発症しない根拠はどこにあるねんと考えてしまう。顔が父親に似てないからとかそういう問題ではない。
作者のために考えるとすると、これが現在の話とすると兄弟がうまれたのは1990年代前半で、その5年ほど前に色素変性症の原因とおもわれる遺伝子異常があれこれ報告された、てか、アメリカでドライジャなどが報告して日本でも追試されたので、大学病院かどっかで家系調査のネタにされて、兄弟での変異の有無がわかったというところか。でも、その時点で単一の変異が原因と決定されたわけでは決してないので「発症しない」と信じる根拠には薄いなあ。弟はもらい子か。ひょっとして弟はどうなってもよかったのか。

ま、確立された治療法のない、進行性の視覚障害をもつお子をもたれた親御さんは、たいへんとかそういう言葉ではすまないのだが。遺伝性だとなおのことです。
前にこういうことがあった。
近所の小児病院の眼科から、このたぐいの病気ではないかという子がうちにセカンドオピニオン的に紹介されてきた。ここ数年挙動見ると中心視野がみづらいようで視力も落ちてきているという10歳くらいの活発な子供。近医では心因性あつかいだったそうな。ご両親は相当思いつめた顔。ちょっと検査してみて、やはりそれが非常に考えられたのだが、その病気でしょうといってしまうだけではどうしようもない。家族歴はあきらかではなく、教科書的にもARなんで両方から来てる筈だがそれはともかく。
その病気である可能性は高いけれども、ともあれ今見えづらくて困っているのだからそれについてまず考えてあげなきゃいけませんねと話をはじめた。治るか、将来どうなるかというのは、気になるのはわかるが、それには時間がかかるかもしれないし、まずは目先の不便を何とかしてあげてはということで、いわゆるロービジョンケアです。ご両親はちょっと戸惑ったがそこは続けるしかない。
治療法を知りたい将来を知りたいという気持ちは非常によくわかるが、逆に、いまこまっていることを放置しては、将来よい対応がわかっても役に立たないかもしれないし、今すこしでも便利にすることで本人のストレスもましになるだろう。治療をあきらめるとかいうことではない。ロービジョンケアするから治らなくなるなんてこともありません。でも、子供は毎日育っているし、自分でどうしようなんてことはまだまだ考えられない。明日この子をどうしてやろうと考えるのは親しかありません。
病気に関しては、誰のせいということはありません、たぶんたまたまです。でも、ここではわからないこともあるので、研究室もある病院の専門外来に紹介します。今後何があるかわからないし現状をきっちり把握するためにも、そういう専門外来に定期的に行くのは大切。なにかいいことがあるかもしれません。で、ここ地元では、このひとがちょっとでもいい形で暮らしていけるよう考えましょうと、相手のもとめることは先送りにして、まずまあ、目先の目標を親御さんに提案したわけで。

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